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「のんびり行こうよ」 赤城智美 アトピッ子地球の子ネットワーク事務局長 第七回

2000.02.01
「のんびり行こうよ」は、『アトピー最前線』50号(1999年4月号)~ 68号(2000年11月号)に不定期連載された、アトピー・アレルギー性疾患をもつ子どもの子育て奮戦記です。


7回 誰をまん中においたらいいのでしょう

理解のしかた
 言葉が遅いことを気に病んでいたとき、保育園の園長先生が「言葉をため込んでいるところだから大丈夫よ。お母さんが、言葉の貯金を増やしてあげれば、きっとたくさん返ってくるよ」と声をかけてくださいました。
 先生の言葉に励まされ、とにかくたくさんのおしゃべりをしました。ダダをこねて困ったときには、とりわけ懇切丁寧に話しかけたように思います。
 食物アレルギーのことについては、たとえ話をしたり、子どもなりの経験を思い出させたりして、妥協せず説明しました。間違って友だちのおやつを食べてしまったときは、熱をいっしょに計ったり、湿疹の出ているところをいっしょに観察したりしました。  子どもって不思議です。3歳には3歳の、5歳には5歳の、その時々の理解のしかたがあって、「あのときはこんなふうに思っていたんだよ」と、忘れたころに数年前の納得のしかたを説明したりするのです。
 あるとき、息子はめずらしく保育園のお友だちを家につれて来ました。お友だちが家に来たがったというのです。「ようこそいらっしゃいませ。ちょうどおやつの時間だからいっしょにおやつを食べようね」と声をかけると、その子は「ぼくね、かゆいの治したいんだけど、このおやつは、かゆくないお菓子?」と聞くのです。
 市販のビスケットは、卵、牛乳、油、添加物とマイナス要素が出そろっていて、食べてしまったときの皮膚炎も、じくじくと治りにくいという特徴があります。保育園や近所に行くときには、息子はもっぱらお煎餅を持参していました。
 彼はどうやら、「ぼくはかゆくないお菓子を持っている」と自慢していたフシがあるのです。症状についても、先生やお友だちにきっちりと説明していたらしいのです。
 今日訪ねてきた保育園の友だちは、全身をかきむしったあとがあり、手のところもかゆそうにこすっていました。息子の話を聞いて、自分もぜひ治したいと、一大決心をしてわが家を訪ねてくれたようなのです。
 後日、息子はその友だちのことについて、こんなことを言っていました。「ぼくは、いろんな人に、食べられなくてかわいそうねって言われたけど、本当はね、かゆくて血が出てる子のほうがかわいそうだと思ってたんだよ。ぼくもときどきかゆくなっちゃうけど、かわいそうな子なんかじゃないよ」。

責任と想像力のこと
 4歳ごろになると、さまざまな食物制限のある子でも、徐々に食生活の幅が広がってくる場合が多いようです。わが子の場合も、卵や乳製品はあいかわらず除去していましたが、食べられるものの幅はずいぶん広がりました。
 保育園の給食では、食べられないものがメニューに出ているときは、園の栄養士さんや調理師さんにご協力いただいて、代わりの食材を調理してもらい、無理なときは自宅から代替品を持参していました。それもだんだんと代わりのものを持って行かなくてすむようになり、大部分は調理師さんの工夫と愛情で、乗り切れるようになりました。
 ところで、「調理師さんの愛情」というのは、例えばミルクシチューを作っているとき、ミルクを入れる前に別鍋に一人分を取り分けて塩味だけをつけるというような「取り分け調理」のことを言っているつもりです。
 幸いわが子の場合は、「ミルクが一滴でも混じってしまったら呼吸困難」というようなアナフィラキシーは起こさない状態でした。アナフィラキシーがあると、取り分け調理は危険な場合もあり、こんなふうにはできなかったかもしれません。
 でも、あえて「愛情」と表現したのには、訳があります。味つけの前に具を取り分けるという、たったひと手間のことなのですが、公共施設の職員の方にこれをやっていただくというのは、なぜかとても難しく、なかなか実現しないことだからです。現場に臨む栄養士さんや調理師さんだけでなく、そのことの結果について責任を負う立場の園長先生などが、どれだけ子どもの気持ちや置かれた状況に思いを巡らせてくださるかが、たいへん大きく影響するからです。
 「責任」という立場だけでなく、園内で過ごす子どものクオリティ(=くらしの質)を大切にする人々に見守られて、彼は保育園で豊かな時間を過ごすことができました。それはほんとうに、有り難いことでした。


『アトピー最前線』60号(20002月号)より転載